800万本販売のコスメブランド『OPERA』が語る“組織のつくり方”
AI、IoT、5Gネットワークの普及──。
私たちの生活は、IT技術の浸透により大きく変わろうとしています。そんな生活者の変化に伴い、企業のデジタルトランスフォーメーションがいま注目を集めつつあります。
株式会社IDENTITYは『あらゆる領域にデジタルシフトを』という言葉を掲げ、企業のデジタルシフトを支援する会社。顕在的な課題だけではなく、潜在的な事業課題へのアプローチを行うプロジェクトデザインファームです。
この連載では、私たちがどのように事業課題にアプローチしていくのか、具体的な取り組みを紹介していきます。
第一弾の今回は、マーケットの変化や顧客のインサイトを読み解き、変化し続けるコスメブランド『OPERA』。
同ブランドは、日本で初めてスティック状の『リップティント』を開発。同製品は、年間10万本で「ヒット」と言われるリップの市場において、2016年の発売から累計800万本(*)以上を売り上げ、各種ベストコスメなどを3年連続で受賞しました。
2019年5月に『唇から、はじまる』をコンセプトに掲げ、ブランドをリニューアル。時代の空気をまとったコピーや、眺めていて心地のいいサイトデザインも印象的です。
時代に合わせて成長し続けるブランドの裏側には、開発者のどんな“思い“があるのでしょうか。
製品開発から、広告制作、販売促進までを手掛けるOPERAの開発担当者に、これまでの歩みやデジタルシフトの戦略について伺いました。
時代や顧客のインサイトから生まれた、新しい『OPERA』
OPERAは102年前に誕生した老舗のブランド。時代やチャネルの変遷に伴い、表舞台に出ていない時代が長く続いていたそうです。そこでOPERAを蘇らせるプロジェクトが動きはじめます。
最初に取り組んだのは、2013年に発売された『シアーリップカラー』の製品開発。リップグロスと口紅の中間の質感が叶うスティック状の製品でした。
「当時、私もターゲット層の女性と同じ世代で、『グロスと口紅の中間の製品が欲しいな』と思っていたんです。それをもとに企画を進めていき、発売したら、ほとんど広告を打たなかったのに非常によく売れて」
「その頃、ちょうど韓国発のティントが若年層の間で密かにブームになっていて、ティントが日本にもあったらいいなと思って企画を練ったんです。完成まで時間がかかってしまったけれど、3年後の2016年に『リップティント』をリリース。発売開始から1週間で予測の何倍以上も売れて、『この製品はすごいかも!』と思いました」
同ブランドの成長には、SNSの影響力も欠かせなかったそう。ヒットに火をつけたのは、リップティント 05 コーラルピンクのコピーでした。
「PRキャラバンで“花嫁がもつ多幸感”と紹介していたら、周りの人から評判がよくて。その後、社内外のOPERA関係者が次々と結婚していき、『名実ともにすごい!』と話題になったんです」
評判が評判を呼び、公式サイトにもアクセスが殺到。その後、発売したバレンタインの限定色も1日で売り切れてしまいます。
そこから口コミで広まった結果、今ではInstagram上に #リップティント のハッシュタグで5万件以上もの投稿があります。女心をつかむ秀逸なコピーの影響力が伺えました。
「当時は予算も非常に少なかったし、スタッフも少なかった。でも、外部の協力者にも恵まれて、特に最初の頃は部活のようなノリで仲間と遊ぶように仕事をしていたら、だんだんブランドが成長していきました」
「今思えば、モノそのものの魅力とともにブランドイメージを体現したクリエイティブを発信していく方法は、時代に合っていたのかもしれません」
ブランドに長年向き合ってきた開発担当者は、当時を振り返りながらそう語ります。
同ブランドの魅せ方に共感し、少しずつ協力してくれる人が増えていきました。
成長し続ける中で感じた“課題”
しかしヒットに伴いブランドが急成長していく中、撮影から、Webサイト制作、SNS運営まで、担当していた業務は次第に手が回らなくなっていきます。
そこからは、チームを再編成するために試行錯誤する日々の始まりでした。
「もともと自社だけでなく他社の協力者たちが助けてくれて、ここまで来れたので。これからも彼らの力を借りたいのであれば、組織を変えていく必要があると感じました」
そこから、新たなパートナー会社との出会いを求めて、4社と巡り合います。Webサイト制作や、SNS運営など、各社の強みを生かした役割分担を考えながら組織を再編成。
しかし、関係者の増加に伴い、チーム全体で足並み揃えてアウトプットをする難しさも改めて体感します。
プロジェクトマネジメントの課題と3つの提案
2018年7月、知人の紹介をきっかけに、株式会社IDENTITYもこのプロジェクトに参画。SNS運用を担当する予定でしたが、チームの現状をヒアリングした結果、開発担当者とともにプロジェクトマネジメントに伴走することに。
当初の大きな課題は、撮影、Webサイト制作、SNS運用、販促物の制作など、各業務で関わる会社が多い中、ブランドとして体現したいクリエイティブを統一できていないことでした。
よりクオリティの高いクリエイティブ制作をするためには、カメラマン、デザイナー、エンジニアなど、クリエイターの意見に耳を傾け、ブランドとパートナー会社の双方が納得する形で、制作を進めることが大切だと開発担当者は考えます。
私たちは各社が連携しやすく、よりフラットな組織体制をつくるために、以下の3つの提案をします。
1.関係各社間のよりフラットなコミュニケーションの構築
2.社内の進行管理体制の整備
3.会社間のデータの一元管理
まずコミュニケーションをフラットにするために、メールよりも迅速に確認や返信ができるチャットツールを導入。撮影、Webサイト制作、SNS運用など、用途別にトークルームを作成し、コミュニケーションの体制を構築しました。
次に、各自のフォーマットで管理していたスケジュールを、マスタのスプレッドシートへ移行し一元管理。また、日次や週次で関係各社へリマインドを実施し、進行管理のサポートを担当。
そして、最新のデータの在りかが誰でもわかるように、Dropboxを通じたデータ管理も導入。Dropbox運用ルールの策定や、マニュアルの制作も行いました。
プロジェクトマネジメントから、パートナーシップの構築、ナレッジのマネジメントまで、私たちはOPERAの開発担当者とともに持続可能な組織体制の構築に伴走。
しかし、新体制の運用をスタートしてから半年後、新たな課題が生まれます。
「当初、チャットツールの導入で、社内確認などはスムーズになりました。でも、全チームがチャットツールへの移行を終えたら、やりとりが膨大な量になり、チャットを追いきれなくなってしまったんです」
使用していたチャットツールの運用の課題は、関連性のあるメッセージをメールのように遡れないことでした。制作会社ごとや用途ごとに作成したトークルームの数は全部で20以上。その中でも複数の議論が交わされるようになり、トークルームはより煩雑になっていきます。
そんな課題を解消するために、私たちはコミュニケーションツールをSlackへ、進行管理ツールをbacklogへの移行することを提案。
Slackは、ひとつのメッセージに対する返信が紐づくかたちで表示されるため、関連する内容を後から探しやすい点が特徴。また、メッセージにスタンプでリアクションできるため、より円滑に短時間でコミュニケーションを取れます。
また、Slackとの連携が可能なプロジェクト管理ツールのbacklogも導入。backlogはガントチャートを手軽に生成でき、関連するデータをまとめて管理することも可能です。社内でナレッジを共有できるwiki機能もあるため、同プロジェクトに最適だと私たちは考えました。
2019年3月、OPERAの社内関係者に向けたbacklogの説明会を実施。そこから少しずつSlackとbacklogに慣れてもらい、運用の課題を改善しながら制作体制を整えていきました。
デジタルシフトでクリエイターとフラットに
メールからSlackへ、スプレッドシートからbacklogへ。デジタルシフトに取り組んで、3つの改善がありました。
「1つめは、働きやすい環境を整えられたこと。海外出張、打ち合わせ、撮影やロケなど、私は外出が多くて。でも、チャットツールがあることで、メンバーと離れていてもコミュニケーションが取れるようになりました。情報を常に“同期”できる環境もすごくいいですよね。これはデジタルだからこそ」
Slackでは基本的にDMは使わず、日々オープンなチャンネルでコミュニケーションを取っているため、常に最新の情報を全員が確認でき、コミュニケーションコストの削減にもつながりました。
「2つめは、業務の優先順位がつけやすくなったこと。backlogではロングスパンのスケジュールを可視化して、Slackではリマインドを見ながら週の細かいスケジュールを追う。長期と短期の2つの視点でタスクを管理でき、進行がスムーズになりました」
「3つめは、本来やるべきことに時間を割けられるようになったこと。プロジェクトマネジメントのサポートをお願いできることにより、ブランドとして叶えたい世界観づくりや製品企画に集中できることが嬉しいです」
デジタルシフトに取り組んだ結果、少しずつ仕事の質も向上し、作業時間も短くなったといいます。
「私たちは小さなチームからブランドをスタートして、WebやSNSなどデジタル上で話題にしていただいたことで、成長してきたと思います。例えば今、Twitterでは、コスメカテゴリーの中では日本で一番のフォロワー数となりました」
「大きな組織ではなかったからこそ、クリエイターと開発チームが直接話してクリエイティブを作ったり、デジタルのコミュニケーションに柔軟に対応できたと思います。そういった良さを保ちながら成長するためには、少数精鋭でメンバーがフラットにコミュニケーション取れる仕組みやインフラを整えることが大切だと考えています」
「クライアントと協力会社は立場も異なるし、垣根無く接することが難しいなと思うことも時にありますが、ブランドのアイデンティティをブレずにつくっていくために、クリエイターと密にコミュニケーションを取り、出来るだけ純度の高い形で世界観を体現していきたいと思っています」
OPERAが体現したいのは、経営とクリエイティブがセットになったブランドづくり。
そのためには、クリエイターと密にコミュニケーションを取り、ブランドのアイデンティティを伝え続けることが大切だと開発担当者は語ります。
(*)2016年10月14日~2019年11月24日期間