神戸から最前線で実践する、戦略を持たないスタンス。Cobe Associeの健やかな仕事と経営

2021.6.14

資金繰り、即戦力の採用、業務の効率化に業績アップ。競争に勝つための経営や、生き残るための戦略があちこちで語られる昨今。メディアが取り上げる起業家の成功体験は、刺激になる一方で、不安と焦燥感を募らせる。

自分たちは本当に、このままでいいのだろうかと。

競争が激しい東京に劣らず、地方でのビジネスは特有の厳しさがある。人材問題、市場規模、東京とは異なる価値観やルール……事業が軌道に乗らず、心身ともに弱ることもある。

「自分たちらしく、この街でやっていこう」

理由はさまざまあれど、何かしらの思いや縁があって選んだ土地で疲弊していくのは辛い。競争に勝つために戦略を立て、生き残るために肩肘張ってふんばり続ける。そんな選択が重要になる場面もあるだろう。

だが一方で、会社にとって第一の原動力(ドライバー)であり、資本でもある自分たちの身体や心にも、じっくりと向き合う時間が必要なのだと思う。

地方で事業を営む私たちは、どうすれば健やかに生きられるのだろうか。

会社のあり方や考え方からヒントをくれたのは、「Work well, Sleep well」をミッションに掲げるCobe Associe。

代表の田中志さんは、自分らしい生き方を確立しようと神戸に移住して起業したものの、「想像通りにはいかないことばかりですよ」と軽やかに笑ってみせる。

東京よりも制約が多いはずの地方。2018年の創業以来、Cobe Associeの健やかさはいかに育まれてきたのだろうか。

PROFILE

田中 志(たなか のぞみ)
Boston Consulting Groupや博報堂グループ内のオープンイノベーションチーム・quantumに在籍後、デジタルヘルススタートアップ執行役員を経て2018年にCobe Associeを創業。2019年度には神戸市データサイエンティストを担当。一橋大学大学院経済学研究科修了(修士)。趣味は将棋と料理。

目指すのは、地域の個人商店。型にはまらないサービスを提供

長野県出身の田中さんは大学時代を神戸で過ごし、大学院への進学を機に上京。新卒で外資系コンサルティング企業に入り、医療スタートアップの執行役員などのキャリアを経て、神戸に戻り起業した。

地方での起業に特別な思いがあるのかと予想したが、意外にも「起業ありきで移住したわけではなく、望む暮らしを求めた先に起業があった」と話す。

Cobe Associeの事業は大きく3つ。売上高が1兆円を超える企業のコンサルや市場調査に関わることもあれば、設立間もないスタートアップのCOO的な役割での支援、組織内のコーチングや人材開発を支援するなど、多岐にわたる。

創業2年半で、依頼してきた企業は30社以上。経営戦略や新規事業の検討、その基礎となる市場調査、チームの研修・コーチング、投資家向けの資料作成。業種や規模を問わず、多様な課題を抱える企業がCobe Associeに駆け込む。

「なぜ自分が頼まれたんだろう……と思う仕事もあります。何をしている会社なのか、自分でも分からなくなるときがある(笑)」

田中さんは冗談交じりにそう話す。「自社の説明が曖昧になる」という状態は、一見、不思議にも思える。だが、それこそがCobe Associeのスタイルでもあった。

「田舎の公立高校の前で、おばあちゃんが一人で切り盛りしているような個人商店があるじゃないですか。少し高めの醤油やお菓子なんかを売っている。それを目指しています。

サービスの提供効率を最大化するスーパーや専門店などではなく、クライアントの悩みに応じて、店主である田中がサービスを提供するんです。

さまざまな要望を持った人たちが個人商店にふらっと立ち寄るように、『ただ困っている』『どうすればいいのか分からない』など、“まだ定型化されていない問い”と向き合う企業の、良き相談相手になれたらなと」

自分たちは〇〇企業だから、この依頼は受けるけど、あの依頼は受けない—— そんな定型化された基準は、経営上の判断を楽にし、効率化につながるだろう。

しかしCobe Associeは、自らの利益や楽を多少見逃してでも、自分たちをあえて定義づけない。その姿勢に、Cobe Associeのエッセンスが浮かびあがるようだ。

あえて「戦略」を持たず、地方の「制約」を味方につける

東京に比べて地方は市場規模が小さく、人材やインフラなどの制約も多い。地方でビジネスを成功させ、生き残るためには、事業の支柱となる「戦略」が不可欠になるに違いない。Cobe Associeには、どんな戦略があるのだろうか。

「正直、うちに戦略はないんですよ」

軽快に笑う田中さんは、筆者の思い込みをあっさりと打ち砕く。その真意とは?

「戦略は『勝利条件』に紐づくものだと思っています。勝利条件とは、自分にとっての『勝利(ゴール)』を達成する条件のことです。

僕は将棋が大好きなんですが、将棋は勝利条件が明確なので、数多の戦術が存在する。勝利条件あるところに戦略あり、です。

ビジネスも同じで、『上場したい』『資金調達を成功させたい』といった勝利条件が明確な場合には戦略が必要です。

ただ僕の場合は、仕事以外の時間をじっくり楽しみたいと考えた結果、移住という選択にたどり着き、神戸で自分にフィットする働き方がたまたま起業だった。勝利条件がないから、そもそも戦略を必要としていないんですよね」

市場競争が激しい東京では、会社の未来を懸け、勝ち抜くための“戦略”がぶつかり合う。外資系のコンサルティング企業出身の田中さんは、かつてその真っ只中で生きてきた。

当時の知識と経験が活きることは、今もある。だが一方で、緻密に練り上げた戦略のもとで事業を営むことの意味を、改めて問い直しているようだった。

「クライアントの中には勝利条件が明確な企業もあるので、そこに基づいて戦略の提案をすることもあります。もちろん戦略の重要性は理解していますが、それだけがすべてじゃないよなと。

例えば、農家である祖父は、毎年誰と競争するわけでもなく美味しいお米を作っているように見える。

戦略を持たずとも、自分の納得する良いものを世に生み出せる事実が、何を意味するのかなと考えるんですよね」

戦略を持って挑むこと、戦略を持たずに過ごすこと。どちらが良い悪いの話ではなく、一方に振り切れば、のちに自身の首を締めることにもつながりかねない。

メーターの針をどの位置に設定するのが最適なのか。田中さんは、その答えを慎重に探っている。

「自分なりの作為や意図を持って行動することは大事だと思います。ただ、世の中、予想通りに行かないことは山ほどある。実際、起業当初に予想した事業計画と現在のポートフォリオはまったく一致しません。

戦略に基づくビジネスと、戦略に縛られないビジネス。両者のバランスを探っているのが、今なのかもしれません」

神戸に来て「自分がコントロール可能な余地が少ない」ことも実感したという。街の人口を急激に増やせるわけでもなければ、地域に根付いた価値観をすぐに覆すこともできない。

その前提に立つと、「戦略」よりも「制約がある環境下でもやれること」に目が向き始める。一例が、インターンの採用だった。

「単純にマーケットの大きさを比較すれば、スキルや経験値の高い人材を探す上で、神戸よりも東京のほうが有利です。

東京にごろごろあるような専門的なインターンも、神戸ではほとんど経験できない。神戸で過ごした学生時代に、僕自身が東京との環境の差を痛感しました。

『だったら、Cobe Associeで何かやってみるか』と、インターンを募集したんです」

採用にはInstagram広告を活用し、現在は5名のインターンが在籍。神戸だけでなく、東京やアメリカからリモートで参加する学生もいる。

人件費の観点だけで考えれば、経験値のある社会人を1〜2名採用する選択肢も考えられそうだが、なぜそうしないのだろうか。

「インターンの子たちって、一人ひとりが違う文脈を持っているんですよ。スタートアップに就職したい人もいれば、新規事業に挑戦したい人、コンサルを真剣に学びたい人もいる。

多種多様な考えを持つ人たちと関わり、どうコミュニケーションをするか。これは私にとって、一つの修行です。

仕事でどう成功するかより、意味のあることだと思っている。結局、“素敵おじさん”として死にたいんですよね(笑)」

田中さんは自身のnoteで「制約があるからこそ最適化ができる」と綴っていた。東京に比べて制約が多いであろう地方でこそ育まれるものが、確かにあるようだった。

クライアントの9割は県外。距離に屈しないビジネスの育み方

「戦略はない」と話すCobe Associeだが、注目したいのはその実績だ。拠点として神戸に根付きながら、案件の多くは関東や東海、九州など9割が県外だという。

「神戸で起業してから、『神戸のために何かをしている会社』と見られることが多くて。実際はそうでもないんです。

だから自分たちは特に意識していないことに、勝手に意味をつけられることに対してはケアする必要があるなと思います。間違った解釈をされているようなら、しっかりと自分たちの言葉で説明するとか。

避けたいのは、与えられた意味にとらわれることですよね。例えば、Uターンで北海道で事業を始めたとして、『北海道のために頑張るんですね』と見られても、そこに引っ張られる必要はない。北海道を拠点にして東京や鹿児島のためになる仕事をしてもいいわけです。

会社の色のつけ方、つけられ方には自覚的であることが大切だなと思いますね」

Cobe Associeは、自らを「プロジェクトデザインカンパニー」と謳っている。だが、田中さんいわく、強いこだわりがあるわけではないのだそう。

「正直、Cobe Associeを『プロジェクトデザインカンパニー』だと認識しているクライアントも少ないと思います。結局は自分たちがしっくりくるかどうかの問題です

周りから付与される印象や意味にとらわれず、自分たちが納得するほうを選び続ける。Cobe Associeが「コンサル企業」と自称しないのも、外から見たときの分かりやすさではなく、自分たちにとっての最適解を探求し続けているからだ。

「事業の中にはコンサル案件もありますが、『コンサル企業』だとどうも違和感がある。本来は『共に座る(con-sult)』という意味を持つこの言葉が、現代では少し異なる意味合いで使われている気がするんですよ。

『プロジェクトデザイン』に関しても同じです。現状はしっくりきてますが、違和感を覚えたら変えればいいか、くらいの気持ちですね」

時代の変化とともに会社のスタンスや思いが変わるなら、途中で舵を切り直せばいい。軽やかで、思い切りのいい姿勢が、地域にとどまらないビジネスを引き寄せるのかもしれない。

加えて気になるのが、遠方のクライアントとの関係の育み方だ。

県外のクライアントとは、オンラインでのコミュニケーションがメインになる。時世柄、珍しい事態ではなくなりつつあるが、オフラインに比べて、相手との距離感や現場の温度感を掴みづらいのではないか?

しかし田中さんは、特に距離に悩まされることはないという。

距離に関わらず、自分のアンテナの立て方次第かなと思います。オフラインで会う場合は、相手のオフィスの様子や周囲の環境に気を配りますよね。

オンラインなら、その分の意識をPC画面に映る相手の表情に注ぐようにすればいい。自己紹介や会話のトーン、表情の作り方を変えてみるのもありです。

私の場合、ぬいぐるみを抱えてオンライン会議に出席することもありますよ。『見えます?』なんて相手に紹介して(笑)。

近いから距離を詰めやすい、遠いから詰めにくいわけじゃないと思います。近いから見える情報や使えるセンサーがあるし、逆も然りです」

ドライバーは分散させ、“否定”にならないように定義する

「移住する前、神戸のイメージは港や牛だったんです。でも実際に来てみたら、海に出たときに見る山が格別なんですよ。晴れた日にフェリーに乗って六甲山を眺めると、日の光が山に当たって、緑がきらりと輝いている。神戸で一番好きな景色です」

その話しぶりから、街への愛着が伝わってくる。神戸のために起業した会社ではないが、「今後は神戸のためにもなる仕事がしたい」と田中さんは意気込む。

「現状、大企業の新規事業やスタートアップのターゲットは、アーリーアダプターや富裕層など、ほとんどが都市圏で暮らしている人たちばかりだと感じています。神戸にも当てはまる人たちはいると思いますが、ごく少数だという印象です。

この少数以外の、より多くの神戸にいる人たちのためになる仕事を、自分の会社で、あるいはクライアントと一緒にできないかと考えています」

「既存の印象にとらわれず、『神戸ってこういう色もありますよね』『こんな色があるのもいいですね』と言えるようなサービスやプロダクトへの憧れはあります。

例えば、地元のナガサワ文具店の取り組みは、まさに理想に近くて。『KobeINK物語』と題して、神戸の地域ごとに特色を捉えて多種多様な万年筆のインクを開発している。六甲グリーン、波止場ブルー、居留地セピアなんてものも。

そうやって地域を見つめながら、色の差分を顕微鏡で見ることに豊かさを感じるし、そのプロセスに心を動かされる自分も大切にしていきたいですね」

勝利条件がないのなら、無理に戦略を持たない。地方特有の制約を“工夫の糧”と捉え、できることからコツコツと積み上げる。周りから与えられる“意味”にとらわれず、自分たちの最適解を更新し続ける──。

Cobe Associeのありようからは、地方で心穏やかに事業を営むためのヒントがいくつも浮かびあがる。

ここまでの話を聞いて、その“しなやかな強さ”の源はどこにあるのだろう、と気になっていた。インタビューの終盤、メディアの名前である「DRIVER(原動力)」から端を発した何気ない会話に、答えの一端を見たような気がした。

何かを否定することで得られるドライバーって、すごく脆いと思うんですよ。例えば『東京じゃなくて地方だ』とか。脆いうえに、自分たちが辛くなる。

そもそも、ドライバーは必ずしも一つに絞る必要はないと思います。車のように『エンジンはこれ、ガソリンはこれ、ハンドルはこれ、車輪はこれ』というように分散させながら、否定形にならないように定義すると、きっと生きやすくなるんじゃないかな」

COMPANY PROFILE

Cobe Associe
問題・課題を編集して解きほぐし、原理・原則と異常値の見極めを通じて、仕事を前進させるプロフェッショナルチーム。クライアントとともに充実した形で仕事に向き合い、より多くの人が充実した睡眠生活を過ごすことができる社会の実現を目指す。手がける事業は、新規事業支援や各種調査、戦略・計画策定支援、スタートアップ連携など。

Webサイト:https://cobe.co.jp/
田中さんの書籍『情報を活用して、思考と行動を進化させる』:https://www.amazon.co.jp/dp/4295405418


編集後記

時折、上手くいかないことを環境のせいにしたくなります。東京では当たり前であるはずのことも通用しない。東京に比べて、地方にはハンデがまだまだあるのだと。

でも、自分たちではどうしようもない状況に対しては、潔く割り切ってもいいのかもしれません。思い通りに進まないことがスタンダードなのだから、制約さえも好機と捉え、できることから始めていけばいい。

「不利な状況は、必ずしも不幸とは限りませんからね」

取材の終わりがけ、田中さんが何気なく話した言葉が印象に残っています。

どんな意味を持ってその地域で働くのか、どのような信念のもと会社を動かしていくのか。ハンデがあろうとも、周囲からどんな意味を与えられようとも、自分たちが納得できるほうをひたすら目指し続ければいい。

会社のドライバーは、自分たちなのだから。

やわらかくも、強い意志のもとで育まれるCobe Associeの健やかさに、そっと背中を押してもらったのでした。