「パーパス」を事業と強く結びつけ、現場のアクションに落とし込む。IDENTITYが開発する理想を実現するための手法

「パーパス」を事業と強く結びつけ、現場のアクションに落とし込む。IDENTITYが開発する理想を実現するための手法
2022.11.10

わたしたちIDENTITYは、全国各地のメンバーやパートナーとともに、地域が抱える固有の課題に、地域に根ざしたアプローチで新たなブランドや事業を生み出し、さまざまな形で展開してきました。

東海地方の情報を届けるローカルメディア「IDENTITY名古屋」にはじまり、岐阜県美濃加茂市の商店街ににぎわいを生み出すコミュニティビル「MINGLE」、岐阜県大垣市で評判の壺焼き芋から着想した「壺芋ブリュレ」、岐阜県多治見市の窯元とともに開発した「きほんのうつわ」──。

フルリモートで場所にとらわれない働き方を活かして、フットワーク軽く各地に赴いて地域にある課題の要因を探る。自ら手を動かして本質をつかみ、手ざわりのあるものとして価値を生み出し、人々の日常や常識を変えるような事業を生み出す──。IDENTITYは目の前の課題に取り組み、なにかしらのシフトを起こしてきました。

創業以来、つねに「いま何をすべきか」と向き合いながら、少しずつ見いだした自らの存在意義を、わたしたちはこのたび、パーパスとして明示することにしました。それは「日常の更新」です。

パーパスは掲げるだけでは意味を為しません。事業活動を通じて、パーパスを体現し続ける必要があります。どうしたらパーパスを体現し続けられるのかを考え続け、わたしたちなりにパーパスと事業を結びつける新たなフレームワークを開発しました。それが「パーパスアセスメント」です。

パーパスアセスメントでは、パーパスを実現するための変化をどのように引き起こすかを言語化し、「いますべきこと」にフォーカスすることで、目指す「未来」と向き合うべき「いま」のあいだに“橋”を架けます。IDENTITYが開発したパーパスアセスメントについて、その趣旨や意義、実践を通してご紹介します。

「パーパス」を事業の実態や現場の行動と結びつけるために

人々の社会課題に対する関心が高まるにつれ、企業は自らの存在意義を「パーパス」という言葉で表し、広くステークホルダーに示すようになってきました。多くの企業が掲げる「ミッション・ビジョン・バリュー」よりも、さらに社会的な存在意義やその価値を「パーパス」として示し、顧客や働く人々に強い共感を呼ぼうとしているのです。

事業成長や効率性、利益といった定量的な指標が基準となる資本主義社会において、パーパスという抽象概念が求められているのは、人々の価値観の変化が顕著に表れていることの一つと言えるでしょう。多くの人々が社会を構成する一員として、仕事や消費行動を通じて、確かな存在意義を社会に示したいと願うようになったのです。

けれどもパーパスのなかには、形骸化してしまう事例が見受けられることもあるようです。パーパスがその企業の事業とうまく結びついていなかったり、美辞麗句を並べるだけだったり……“机上の空論”になってしまっている。

顧客からすれば、その企業固有の価値に感じられず、耳ざわりの良い言葉に過ぎないものとなってしまうのです。また、経営層を中心に設定したパーパスが現場の実情と合わず、従業員のやりがいにつながらないこともあります。“お仕着せ”のパーパスでは、働く人が自らの行動に結びつけることが難しいのです。

「IDENTITYがパーパスを掲げるのであれば、言葉だけでなく、事業の実態にも反映し、現場の行動と結びつけたい」──そんな想いを持って議論を重ねてきました。その結果、既存のパーパスの問題を解消するために、パーパスを実現するプロセスを評価する方法を策定することにしました。それが、わたしたちの提案する「パーパスアセスメント」です。

パーパスアセスメントとは、確かなアクションにつなげるための「問い」

「パーパスアセスメント」とはIDENTITYが独自に開発した、パーパスに向かって事業活動を実践できているか評価する指標です。

目指すべきパーパスと社会のあり方、そしてMember、Customer、Partner、Local Society、Enviromentの5つのステークホルダーを示したモデル図と、その実現に必要な項目を記したチェックリストから成り、現時点での達成度を評価します。各ステークホルダーがいまどんな状態にあるか、実際の事業活動と接続させて3段階に落としこむことで、実現したい社会に到達するまでのプロセスを可視化します。

パーパスアセスメントが根ざすのは、その企業やブランドの「らしさ」です。世界の潮流や人々の要請を踏まえながらも、まずは自分たちがどうありたいのか。かかわる人々がどうあってほしいのか。これまで形にしてきたものやサービスから紐解き、各ステークホルダーを実際に思い浮かべ、それぞれの理想像を言語化します。一足飛びにパーパスを目指すのではなく、あるべき社会から逆算し、確かなアクションにつなげるために必要なチェックリストを作成。その達成によってパーパスの実現を目指します。

チェックリストの記入例

パーパスは企業の存在意義という、抽象概念を取り扱うからこそ、かかわる人々が解釈し、自らの意思決定や行動につなげる必要があります。ともすれば抽象をいかに具体へ落とし込むか、戸惑ってしまう人が出てくるかもしれません。

パーパスアセスメントは、抽象を具体へ橋渡す布石を敷くことで、かかわる人々の自律的な意思決定を促します。その過程において、あらゆるステークホルダーにポジティブな影響を及ぼし、持続的かつ有機的なエコシステムを築くことが、パーパスアセスメントのもたらす価値です。

新たな事業を生み出し、土地固有の文化と技術を持続可能に

こうしたパーパスアセスメントの考え方を踏まえ、IDENTITYはあらためて、わたしたちの「らしさ」を見つめ、「日常の更新」というパーパスを策定しました。

IDENTITY本社のある岐阜県美濃加茂市。その隣接する地域一帯で生産される美濃焼は、国内市場の約5割を占めるほど広く親しまれてきた陶磁器です。歴史をさかのぼれば、かつて存在した湖によって広大な粘土層が堆積し、そこで採れる良質な土からうつわがつくられるようになりました。茶の湯の世界で珍重され、やがて日常のうつわとなり、近代化による大量生産により、海外でもその品質が認められました。さらに高度成長期のさなか、うつわのみならずタイルや屋根瓦、セラミックなど工業製品の生産にまで発展したことで、一大産業として栄えたのです。

時代の移り変わりにより陶磁器の需要が縮小しても、タイルやセラミックが産業を支え、「土を掘り、ものをつくる」という営みは途絶えませんでした。美濃では豊富な鉱物が採れ、ものづくりに勤しむ人々がその技術を磨き、文化を育みつづけてきたからです。その土地固有の文化と技術を次世代につなぐことは、その地域を持続可能なものとするための確かな礎となるのです。

産地の模索は続いています。タイルの需要が縮小し、陶磁器づくりに回帰するメーカーも出てくるなか、IDENTITYでは岐阜県多治見市の窯元・丸朝製陶所とともに「きほんのうつわ」を開発。大量生産型のビジネスモデルから脱却し、現代のライフスタイルに寄り添うブランドとして「365日使えるうつわ」を提案しています。

さらに「きほんのうつわ」の原材料を2023年初頭をめどに、順次リサイクル土に切り替える新たな試みもはじまっています。この取り組みは、丸朝製陶所がかねてより抱いていた課題がきっかけでした。割れたうつわなど製品に至らないものは、これまで慣習的に産業廃棄物として処分されてきました。けれども多治見の山に捨てられたうつわは、数百年、数千年先も残りつづけるのです。

IDENTITYのパーパスアセスメントには、Enviromentの項目に「循環型モデルが全体的にサプライチェーンに採用されている」、Local Societyの項目に「シビックプライドが醸成されている」とあります。このパーパスアセスメントと照らし合わせれば、「きほんのうつわ」の選ぶべき選択肢がおのずと浮かび上がってきます。

「きほんのうつわ」らしく、うつわとしての品質を保ちながら、リサイクル土を用いた循環型モデルを実現する──。パーパスアセスメントに基づく試みが、先細りする産業の新たなロールモデルとなり、地域社会に還元されていくことを願っています。

「日常の更新」というパーパスに向けて

IDENTITYではほかにも、「IDENTITY名古屋」や「壺芋ブリュレ」といった自社事業に取り組み、目の前の課題と向き合ってきましたが、そこにはわたしたちの「らしさ」が通念していることに気づきました。あらためてパーパスを言語化し、パーパスアセスメントを適用することで、ますます「日常の更新」につながるビジネスモデルを確立していきます。

IDENTITYで働く人、かかわる人がより共通認識を持ち、自律しながらも「IDENTITYらしい」意思決定ができるようになることで、各ステークホルダーの目指す未来へ導き、社会における「土地固有の文化的・技巧的資本の持続可能性の担保」を実現するエコシステムを目指します。

さらにパーパスアセスメントは、わたしたちIDENTITYのみならず、あらゆる企業やチームにも応用できるものと考えています。わたしたちはさまざまなクライアントの事業開発を支援していますが、どの組織体にも「らしさ」があるように、その企業やチーム固有の風土や文化に根づいた資本があり、パーパスがあります。その言語化を手助けし、わたしたちの持つ様々な資本と掛け合わせることで、価値あるブランドやプロダクト、サービスの推進力となればと考えています。IDENTITYとして、クライアントのパーパスアセスメントの策定から運用までを併走することで、その支援を行います。

グローバルな動向を見れば、ESG投資・インパクト投資の台頭など、企業活動を社会活動の一環ととらえ、企業はますます持続可能な社会をつくる一員としての責任を求められるようになってきています。わたしたちはパーパスアセスメントの定量的・定性的精度を高め、ゆくゆくは企業価値評価に供する指標の一つとして、広く用いられるものとなるように尽力していきます。こうしたわたしたちの実践や思いに共感し、事業に役立てたいとお考えの方は、ぜひこちらまでお問い合わせください。