“机上の空論”にしない事業戦略はどうつくる?「登る山」の見つけ方とは

“机上の空論”にしない事業戦略はどうつくる?「登る山」の見つけ方とは
2023.1.26

どんなに優れたアイデアの種も、育て方ひとつで枯れてしまう。

事業も同じだと言えます。どれだけ事業の内容がよくても、それをどう育むのかを描く「事業戦略」の質が伴わなければ、成果という名の花はおろか、芽すらも出せずに終わってしまうかもしれません。

市場をしっかりと観察し、競合他社の取り組みから活かせる学びを抽出する。そのうえで現状の課題と照らし合わせて、自社らしい方向性を定める。そんな事業戦略はどのように作るのか? IDENTITYが考える事業戦略の策定におけるファーストステップをご紹介します。

「KPIの立て方」としての事業戦略

「事業戦略とは何か?」。インターネットで調べると、おおよそ「企業が事業の目標を達成し、競合他社より優位になるための意思決定」だと定義されています。

事業ごとにスムーズな意思決定を後押しするために、限られた経営資源をどう蓄積し、分配するのか。市場でどのように競争していくのか。組織をどうマネジメントするか。こうした基本的な方針や計画が盛り込まれ、それらを考えるためのフレームワークも散見されます。

しかし、ただ単にフレームワークを踏襲するだけでは意味がありません。なぜ、それを考える必要があるのか、考える際に何に気を付けるべきなのかを理解しないままでは、せっかく策定した戦略も「机上の空論」に終わってしまいます。

IDENTITYは、事業戦略を「事業の目標を達成するためのKPIの立て方」と捉えています。

事業目標が「山の頂上」だとすれば、事業戦略は「山の登り方」だと言えます。より良い状態で頂上に到達するために、どのルートで山を登るべきなのか。そのルートを結ぶ「チェックポイント」が、KPIだと考えられるでしょう。

本記事では、事業戦略の策定におけるファーストステップとして、登る山を見つけるまでのフローに注目し、実施時に意識すべき点をご紹介します。

取り組みのイメージが湧きやすいように、今回は以下のような架空のアパレル企業(以下、A社)の設定を設けました。

「A社は創業当初から卸売販売がメインだったが、コロナ禍で売上の低迷が続いたため、直販比率を増やそうとしている」

こうした設定のもと、戦略策定におけるファーストステップの流れをお話をします。

現状の課題を整理する

まずは、事業が抱える現状の課題を整理するところから始めます。

課題を正しく認知しなかったり、立てる問いが曖昧だったりすると、施策を打っても課題の解決に結びつかないことが多々起こります。

そのような事態を避けるためには、予実やKPIなど足元の数字を精査することが肝心です。

売上が伸び悩んでいるのであれば、どこがボトルネックになっているのか? KPIと照らし合わせて原因を考えていきます。

A社の場合、卸販売をメインに行っていたものの利益率が悪く、予実やKPIの精査から直販比率を上げる必要があると結論づけました。結果、ECの立ち上げに踏み切り、ロイヤルカスタマーの獲得を来年度の目標に掲げることに。

市場・競合他社のリサーチ

課題の整理が終われば、次は市場・競合他社のリサーチです。整理時に挙がった課題へのアプローチとして、市場ではどのようなトレンドがあるのか、競合他社が実践している手法は何があるのか。デスクトップリサーチを中心に調査をしていきます。

重要なのはリサーチの件数ではなく、「この会社はなぜこの施策をやっているのか?」と、取り組みの狙いやKPI、期待できる効果を推察し、自社の戦略の仮説立てに活かすことです。

このとき、事業の課題に基づき作成したフレームワークに沿ってリサーチを進めていきます。

A社は、主に以下4つの観点から競合やEC他社の取り組みをリサーチすることに。

  1. 卸販売から小売に転換し、成功しているブランドは?
  2. 転換時にどのようなチャレンジをしているのか?
  3. 顧客をどう定義づけしている?
  4. 顧客とどのようにコミュニケーションを取っている?

リサーチの結果、A社は卸売から小売に事業転換した複数の企業に共通した特筆すべき傾向を見つけました。

インフルエンサーを起用したPR投稿や、ハッシュタグや公式アカウントを紐づけた投稿を条件にしたプレゼントキャンペーンなど、SNSでの発話数(UGCや、感想の投稿など)を増やすための施策に注力していたのです。

要素の抽出・フレームワーク化

リサーチが終われば、結果の分析から競合他社の取り組みの要素を抽象的に整理し、汎用的に利用できるフレームワークに落とし込みます。今回紹介するフローの中で、最も重要なステップです。

肝に命じておきたいのは、「競合がこれで成功しているから、うちもこれをやろう!」と真似をするわけではないということ。

その取り組みは抽象的に表すと何をしているのか? 背景にある目的は何なのか? こうした観点から分析を進めることが大事です。

抽象化する際は、「なぜその施策をやるのか」という問いからブレイクダウンしていくとわかりやすいです。

抽象的に整理し終えたら、以下のようにフレームワークとして落とし込みます。

例えば、フレームワークのゴールを「SNSで絶えず話題をつくること」とした場合。発話数を増やすための仕掛けは、リサーチより大きく二つあることが分かりました。一つはSNSに思わず投稿したくなるような体験(デザイン、パッケージや同梱物の設計、使用感など)にこだわること。二つ目はSNSで積極的に発信してくれる、熱量の高い顧客(ロイヤルカスタマー)を獲得することです。

これら二つを達成するためには、何が必要なのか? 考えうる選択肢は数多くありますが、A社は現状の課題感と照らし合わせ、「自社ブランドのポジションを整理し、ブランドのイメージを明文化する」必要があると判断しました。

方向性の検討から施策とKPIを策定

最後は、抽出したフレームワークをどう活かせるのか、現状の課題と照らし合わせて方向性を検討します。

自社のリソースで何をどこまで実行できるのか? その施策に基づき、目標達成のためのKPIをどう設定すべきなのか? 実行の組織体制や外部パートナーの必要性などの検討が進めば、大枠の予算計画も見えてくるでしょう。

A社はロイヤルカスタマーの獲得に向け、まずは「ブランドポジションの明文化」を来期の戦略テーマに掲げることに。「登る山」を見つけたら、次に「登り方」を考えます。A社はどんなKGI・KPIを設定し、具体的なアクションを検討するのか。

登り方を決める方法の詳細は後日、記事にまとめてご紹介します。

事業戦略の策定から実行まで

大切なのは策定した事業戦略が形だけで終わってしまわぬよう、施策の展開後も、適宜KPIの達成率を振り返ること。そして、策定時の仮説が正しいかどうか、ユーザーインタビューなどを通じて検証を重ねることです。

IDENTITYはこれらのフローに伴走して、事業戦略の立案から実行まで支援しています。

新規事業を立ち上げようとしている。もしくは立ち上げたばかりで事業の方向性に不安を抱いているかたは、ぜひお気軽にお問い合わせください。