エンジニアとうつわづくり。二足のわらじを履くPdMが、領域を横断する働き方から得た挫折と学び

2022.10.12

人生100年時代の到来、場所や肩書きに捉われない「多様な働き方」の普及。これからの人生、自分はどう働き、生きたいのか? 今の仕事は嫌いじゃないけど、新しい環境に飛び込んで自分を試してみたい気持ちもある。ただ、今すぐ転職や独立をしたいわけでもない。

もしも、今の仕事とバランスを取りながら、新しいことに挑戦できる場があったなら?
そんな思いから、IDENTITYで働き始めたメンバーがいます。

新規事業の創出や既存事業のDX、組織デザイン・ワークフローの改善に、ブランドコミュニケーションの設計。IDENTITYは企業の潜在的な課題にテクノロジーやデザインの力でアプローチする、プロジェクトデザインファームです。

IDENTITYの大きな特徴は、ギルド型組織であること。プロジェクト/プロダクトマネージャーを始め、コーディネーターやリサーチャー、編集者/ライター、デザイナーなどさまざまな職能を持ったメンバーが集まり、案件ごとにチームを構成。各々の専門知識と技術をかけ合わせながら、多様な事業課題に向き合っています。

メンバーの多くがフリーランスですが、なかには複業として働くメンバーも。2019年にジョインした隅藏美咲さんは、その一人です。アパレル企業でエンジニアとして働きながら、IDENTITYでは主にプロジェクト/プロダクトマネージャー、コーディネーターの役割を担っています。

もとはアパレル業界を取り巻く環境問題を改善するべく、エンジニアの世界に飛び込んだ隅藏さん。彼女はなぜ、業界も業種も飛び越え、IDENTITYで働く道を選んだのか?

IDENTITYで複業をすることの実態、IDENTITYで働くなかでの苦労や学びを経て、隅藏さんが新たに挑戦したいことについてお話を聞きました。

PROFILE

隅藏 美咲(すみくら みさき)
大学では都市政策/環境/観光学をメインに研究。新卒で小売流通系Sler企業に入社し、エンジニア・PjMとして勤務。その後、機械学習・AI系のベンチャーでのPjMを経て、アパレル会社に転職。DX部門にてデータ分析や機械学習を担当している。IDENTITYには2019年にジョインし、社内外のプロジェクトのコーディネーター、PjMを経験したのち、自社プロジェクト「きほんのうつわ」のPdMに就任。現在も複業で働いている。

エンジニアと両立しながら、新しい分野に挑戦したかった

ーーはじめに、隅藏さんがIDENTITYに入るまでの経歴を教えてください。

小売のPOSシステムを扱うSler企業にエンジニアとして入社し、ポイントシステムやCRMの開発、保守運用をしていました。次第に、CRMやデータ分析によってお客様のロイヤリティを向上する仕組みを学びたい思いが強くなったので、アパレル企業のDX部門に転職しました。そこでは、データエンジニア/データアナリストとして、データ基盤の構築やCRM系データを中心としたデータビジュアライズを行っていました。

ーー小売業界やエンジニアを志望した理由は何だったのですか?

昔から服が好きで、1社目はアパレル企業を志望していたんです。学生時代に「環境問題の経済学」を学んでいたことから、アパレル業界における大量生産・大量廃棄の課題を改善したい思いもあって。販売員よりも、エンジニアとしてデータ分析による在庫の最適化など、技術面でのアプローチを試みようと考えました。そのためにもまずは小売を学びながらエンジニアの知識も得ようと、小売のPOSシステムを扱うSler企業に入社。ある程度の経験を積んでから、念願叶ってアパレル企業へ就職したんです。

ーーかねてからの目的であった、環境問題の改善には取り組めたのでしょうか?

いくらか具体的なアプローチに挑戦することはできました。学生時代からの夢が叶って嬉しく思う一方、大きな組織のなかで一社員ができることの限界も感じたんです。環境に負荷のかからない選択肢を取りたくても、利益や効率を重視して諦めざるを得ないことも何度かありました。仕事は充実していましたが、モヤっとした気持ちを抱えていたのも事実です。

そんななか、自らのエンジニアとしての寿命も考えるようになりました。このまま、エンジニアの経験だけで生きていけるのか。そもそも、これからの人生、どのように働き、生きたいか。問い続けるうちに、「エンジニア以外の仕事も挑戦してみたい」と思うようになりました。

ーーそれが、IDENTITYでの仕事を始めたきっかけに?

新しいことを始めたいけど、今の仕事をすぐに辞めたいわけでもないし、どうしようかと悩んでいたときに、IDENTITYで働く友人から仕事の相談を持ちかけられたんです。「地域に眠るうつわの魅力を広く伝えるため」に立ち上がったブランド「きほんのうつわ」のもとになったメディア「cocorone」のコンテンツ運用をサポートする、“コーディネーター”に興味はないかと。

ーータイミングよくチャンスが舞い込んできたんですね。応募を決めた理由は?

新しい分野で仕事を始めるなら、ある程度はアパレルでの業務と並行して、バランスを取りながら働けるのが理想だなと思っていました。その点、IDENTITYは完全フルリモートで、成果重視ゆえに働く場所や時間の制約もなかったので、アパレルの業務と両立しやすそうだと思って応募しました。

ーー実際、バランスは取れましたか?

自分のペースで働けている実感はありましたが、考えることや、ハンドリングすることは増えたので忙しくはなりましたね。本業の昼休みの時間すら、スマートフォンでIDENTITYの仕事の進捗を確認していた時期もありました。

慌ただしくはなりましたが、「仕事の幅が広がったな」という安心感は得られましたね。会社を辞めてエンジニアじゃなくなっても、路頭に迷うことはないだろうなと。

コーディネーターに求められる「主体性」と「想像力」

ーーひと口に「コーディネーター」と言っても、その役割は企業によりけりかと思います。IDENTITYでは、どんな役割なのでしょうか?

以前、代表の碇さんがサッカーに例えて説明していました。攻撃と守備のタスクを分け、どんなときもプロジェクトマネージャーが意思決定とディレクションに集中できるように。細かいパス回しやトラブルシューティングを担うのがコーディネーターの本分だと。

個人的には、秘書とエンジニア、プロジェクトマネージャーを足し引きした役割だと解釈しています。会議やスケジュールの調整などは秘書的。要件をまとめて見返しやすい議事録を作成したり、ITツールを使いこなして活用したりするのはエンジニア的。プロジェクトを俯瞰で捉えて影響範囲を考え関係者に声かけをするのは、プロジェクトマネージャー的だなと感じています。

ーーこれまでの経験がコーディネーターに活きていると感じたことはありますか?

ありますね。新卒で入った会社では、エンジニアながらプロジェクトマネージャーのような動きが求められました。システムの修正点があれば即座に影響範囲を調べ、関係各社に見積もりを取る。他部署や外部の企業と連携を取る必要もあるため、「自分のタスクだけ終わればよし」という考えにはなれなくて。全体のタスクやスケジュールを把握してクライアントとコミュニケーションを取るなど、常に先回りして動く必要がありました。新卒時代の経験があったからコーディネーターの業務に順応するのも早かったのかもしれません。

あとは、世話を焼くのが好きな性格も、コーディネーターに適していたのかもしれません。末っ子がゆえに妹がほしくて、代わりに幼なじみの妹を自分の妹のように可愛がったり。自分が道を作るタイプではなく、人の道を舗装して通りやすくするタイプなんだと思います。

ーーコーディネーターを務めるにあたって一番大事なことは何だと思いますか?

自分がどう振る舞えば、プロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャーは気持ちよく仕事ができるのか。チームメンバーがプロジェクトそのものに集中できるように、働きやすい環境を整備することでしょうか。指示を待つのではなく、相手の立場を常に想像しながら状況を察して自ら動く“主体性”も必要なポジションだと思います。

多様な“感性”を形にして売る難しさ、フリーランスの厳しさ

ーーーー主体的かつ広い視野で仕事に向き合う。隅藏さんがプロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャーも任され始めたのは、そうした姿勢が評価されたからだとも感じます。これまでIDENTITYではどのような案件を担当してきたのでしょうか?

コーディネーターとしては、飲料メーカーのSNS戦略の策定、クリエイティブ制作、運用までの進行管理を担当していました。プロジェクトの規模も大きく、ライター、編集者、デザイナー、カメラマンなど関わるメンバーも10人以上だったので、スケジュールの調整やコミュニケーションの面で苦労することもありましたが、その分学べることの多かった案件でしたね。

IDENTITYで初めてプロジェクトマネージャーを務めたのは、コスメブランドでの案件の伴走です。クライアントと複数の企業が関わるなかで、クライアントが実現したいことを各社と調整しながら実現する。その過程で認識の齟齬が生じないように調整し、合意を取ることがいかに大切かを学びました。

コーディネーターとして関わり始めた「きほんのうつわ」も、現在はプロダクトマネージャーを任せてもらっています。どのプロジェクトも、本業だけで仕事をしていたら一生縁がなかっただろうなと思いますね。本当に貴重な経験ばかりです。

ーー先ほど、隅藏さんは自身のことを「道を作るタイプではない」と話していました。その自覚を持ちながら、プロジェクトの道を作り先導する必要のある、「きほんのうつわ」のプロダクトマネージャーの役割にどう向き合っているのか聞きたいです。

正直、プロダクトマネージャーの責任感の重さに、うずくまりたくなるときもあります。システムのようにリリースした後に修正が可能なデジタルなものと異なり、うつわの場合、そうはいきません。一度「これでいく」と決めて作り始めてしまえば、もう後戻りできない。

加えて、自分とは別人格の「インナーペルソナ」を設定して、それを基準にブランドの世界観を作り、プロダクトに体現させる難しさも感じています。インナーペルソナは、世界観の軸となる「中の人」のことです。年代や性別でターゲットを限定していた従来のペルソナとは異なり、インナーペルソナは世界観に共感するユーザーをターゲットと考えています。

この人格が自分とは似ても似つかないので、「ペルソナだったら、どう感じるのか?」「AとBのどちらを好むのか?」といった判断がしづらいんです。なおかつ、プロダクト作りは人の感性で良し悪しが左右されやすい世界。正直、窮屈さを感じることもあります。

ーー窮屈さを。それはなぜですか?

感性は人それぞれで、否定も何もないはずなのに、世の中に良し悪しを判断されることに抵抗があるからだと思います。ありがたいことに「きほんのうつわは、おしゃれだね」と言っていただく機会も増えましたが、嬉しい反面、違和感も覚えるんですよ。

「おしゃれ」や「ダサい」といった言葉のように、プロダクトの表面的な部分だけを見て良し悪しを評価されるものではなく、プロダクトに込めた思いや制作ストーリーなども含めブランドそのものに価値を感じてもらえるように。ただ「きほんのうつわがある日常って、いいよね」と感じてもらえる、そんなブランドでありたいなと思います。

とはいえ、何を「いい」と感じるかも人それぞれ。チームメンバーですら感性は一人ひとり違うので、プロダクトに関わる決断を迫られたときは本当に悩みます。

ーーそうした難しさがあるなか、どんな工夫をしてうつわを作り続けているのでしょう?

第一に、美濃焼の産地に何度も足を運び、うつわづくりに協力してくださっている地域の方々と対話を重ねることです。美濃焼が発展した産地のこと、美濃焼の特徴、焼き物を取り巻く社会課題や業界の事情……。自分たちで実際に見て、聞いて、触れて、学んだことを、うつわや事業に活かすことを大切にしています。

新しいプロダクトをリリースするときには、「私たちがなぜそのうつわを作るか」を定義し、繰り返し発信することも心がけていますね。うつわの原料である多治見で採れる土は、他の地域と比較してどんな特徴があるのか、なぜその土を活用して新しいうつわを作りたいと思ったのか。作り手にとっては当たり前の情報も、買い手にとっては新鮮なものばかり。うつわが完成するまでのストーリーや背景も丁寧に伝えることで、より商品に興味を持ち、価値を感じてもらえるように工夫しています。

難しい決断を迫られるときもありますが、まずメンバーそれぞれの意見を尊重しつつ、マーケティング的な視点も引っくるめて自分なりに考え、結論をまとめるようにしています。それでも、議論の出口が見えなかったり、決断に迷いが生じたときには碇さんに相談して決めていますね。

一度、多忙な時期が重なったとき、パンク状態になって碇さんに「もう無理です」って、弱音を吐いたこともありました。碇さんはちゃんと話を聞いてくれるし、チームメンバーは仕事のフォローもしてくれる。だけど結局、自分のパンクを直せるのは自分だけです。

心身の不調から仕事を続けられなくなったとき、会社員なら補償が効くものも、フリーランスはその多くが自己責任。会社員をしながら、フリーランスの厳しさを学べたことも、これからの働き方を考えるうえでは大きな収穫だったなと思います。

伝統産業を誇らしく継ぐ、かっこいい大人に出会って

ーー自分の気質とはズレる部分があったり、責任の大きさや考えることの多さから、自分のキャパシティを超えることもあったり。それでもなお、隅藏さんが「きほんのうつわ」に携わり続ける理由が知りたいです。

「きほんのうつわ」は大変なことも多いですが、自分の見える世界を広げてくれる仕事でもあります。わたしは近所に工場や田畑のない、マンションとビルの集積地のような地域で生まれたので、ものが作られる過程を知らずに大人になったんですよ。自分が日々当たり前のように使っているものが、どんなところで、どんな思いで、誰によって作られているのか。

何も知らなかったから、もの作りの現場への興味が人一倍強かったんですよね。だから、うつわの制作元である丸朝製陶所さんを初めて訪れたときは、本当に新鮮でした。

ーー具体的にどんなところを新鮮に感じたのですか?

「きほんのうつわ」のプロダクトは、丸朝製陶所さんの窯元がある美濃地方ならではの土を使って作られています。“奇跡の土”とも呼ばれる美濃地方の土の魅力や、その個性を活かし熟練した技術で焼き物をつくる丸朝製陶所さんの思いは、以前じっくりお話を伺ったことがありました。

製品の資源が取れる地域に行ったこともなければ、資源そのものを見たのも生まれて初めての経験で。「今まで自分は、どこかで採れたものが集まってくる場所に住んでたんだな」と気づいたんです。都会で育った自分は、本当に何も知らないんだなって。

ーー「きほんのうつわ」では、丸朝製陶所さんを始め、うつわ作りの現場に何度も足を運びながらプロダクトを作っていると聞きました。現場の人と対話を重ねるなかでの学びも、数多くあったのではと想像します。

うつわ作りの知識や歴史、技術に関しての学びはもちろんありますが、丸朝製陶所の職人さんからは人として大切なことも教わったと感じています。歴史ある家業を継ぎ、自分たちが暮らす土地の伝統産業を次世代へ繋ぐ。製陶所を訪れるたびその誇らしい姿に感銘を受け、率直に「かっこいい大人だな」と感じました。

これまで生きてきて、「学歴やキャリアで人生の価値が決まる」という価値観に触れたこともありましたが、納得する部分もありつつ、どこか違和感を感じていたんです。学歴やキャリアがあることは誇らしいし、大切なことに違いありません。

ただ、キャリアやステータスといった類のものとは別次元で、「1300年もの歴史がある美濃焼を、100年後でも使えるように」と、日々ものづくりに真摯に向き合う丸朝製陶所の職人さんを見ていると、「学歴やキャリアで人生の価値が決まる」とはどうしても思えない。うつわづくりを通じて、自分の信念を再確認する瞬間が何度もありました。

うつわづくりを通じて、環境に良いエコシステムの創出を

ーー隅藏さんが思う、IDENTITYの良さ、IDENTITYらしさについて教えてください。

自社事業を積極的に展開するなかで、売上だけでなく、環境に良い選択を取るためにはどうすればいいのか、真剣に向き合っているところです。現在「きほんのうつわ」では、リサイクル原料を活用したプロダクトを検討していて。先日、経営メンバーを交えて「きほんのうつわ」の工場見学に行き、リサイクル原料についてお話を伺ったんです。

工場の方いわく、「リサイクル原料を使った商品を市場に出そうという企業は、まだまだ少ない」と。そのお話を受けて、共同代表の碇さんとモリさんが、「いかにそれを実現するか?」と真剣に議論していた姿がとても印象に残っています。

ーー学生時代から「環境問題」に関心のあった隅藏さんだからこその視点ですね。

環境問題が大事なのは分かるけど、やっぱり売上のほうが大事。そんな企業のほうが、まだまだ多いと思うんです。「サスティナブルなことをやります!」と宣言するだけなら簡単ですが、実際に行動に移すのは相当な労力と勇気がいる。だから、環境に良い選択肢を迷わず取ろうとする二人を尊敬すると同時に、プロジェクトを推進する立場としても心強さを感じましたね。

ーーキャリアの幅を広げるためにIDENTITYで副業を始めたものの、今やプロジェクトを推進する立場から「環境問題の改善」にアプローチしている点に巡り合わせを感じました。最後に、隅藏さんが今後IDENTITYで挑戦したいことを教えてください。

これからはインプットの時間を大切にしたいと考えています。リサイクル原料への知識や、関連で話題になりがちな「トレーサビリティ」の概念や重要性を学び直したいですね。ありがたいことに、最近は美濃焼の産地である地域の人との交流も広がり、「きほんのうつわ」を知ってくださる方も増えてきました。「きほんのうつわ」で得られた知見や利益を地域に還元するためにも、積極的にリサイクル原料を活用し、「リサイクル原料は利益の出る、意味のあるものなんだ」という認識を業界全体に広めていきたいです。

 

IDENTITYでは、地域や企業の潜在的な課題に共にアプローチする仲間を募集しています。ご興味をお持ちの方は、こちらよりお気軽にご連絡ください。