オウンドメディアの「らしさ」を、人が替わっても保つために。「AJINOMOTO PARK」編集読本のこと

Client
味の素株式会社
Solution
エディトリアルガイドライン構築
2026.9.15

オウンドメディアには、記事のつくり方より前に難しい問題があります。人が入れ替わっても、メディアの「らしさ」を保ち続けることです。

私たちは、味の素社が運営するオウンドメディア「AJINOMOTO PARK」のコンテンツ運営を、マガジンやSNSの領域で支援してきました。その中で生まれたのが、メディアの判断基準をまとめた「編集読本」を、クラシコムと共同でつくるプロジェクトです。

AJINOMOTO PARK 編集読本

時間とともに、目線が揃わなくなる

きっかけは、運営チームが長く抱えてきた課題でした。時間が経つにつれて、メディアの目線が少しずつ揃わなくなっていくことです。

企業のオウンドメディアは、組織の中での立ち位置が揺れやすいものです。チームは数年で入れ替わり、メディアに求められる役割も変わる。オウンドメディアは成果がすぐには出ない仕事なのに、前提が動き続けると、地に足のついた運用がしにくくなります。

方針をまとめた資料は、過去にもつくられていました。ただ、日々の運営のなかで参照され続けるとはかぎらず、時間とともに手に取られる機会が減っていく。時間をかけて判断基準を身につけた人も、いずれ異動していきます。

一方で、確かなものもありました。長く続いてきたメディアには、ファンとの接点という資産がある。だからこそ、人が替わっても揺らがない「このメディアは、どんな人のための、どんな場所なのか」を、言葉として残す必要がありました。

参照したのは、クラシコムの編集読本

このとき手がかりにしたのが、クラシコムの取り組みです。

「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムは、自社の編集の考え方を一冊にまとめた読本をつくり、メディアの「らしさ」を保ち続けています。制作の背景は同社の記事「『らしさ』を未来に繋げていくために。『北欧、暮らしの道具店』編集読本・制作の裏側。」でも公開されています。マニュアルとして機能しながら、読む人の解釈の余地を残す。この設計に、「AJINOMOTO PARK」の課題を解く鍵があると考えました。

プロジェクトの座組は、こうです。クラシコムがワークショップの企画とファシリテーションを担う。私たちは、日々の運営支援で蓄積してきた文脈を持ち込みながら、ワークショップから出てきたエッセンスを抽出し、編集読本として編みあげる。それぞれの持ち場がはっきりした、共同のかたちでした。

戦略からではなく、自分から始める

ワークショップで一貫していたのは、戦略のフレームワークから入らないことです。運営メンバー自身が生活者として感じていることを、起点にしました。

ワークショップは三段階で積み上げました。最初に、メディアと自分自身を接続する。次に、コンセプトとかたちを言語化する。最後に、各チームの業務へ落とし込む。この順序で、数か月かけて進めました。

出発点の問いは「どんな人のための、どんな場所でありたいか」。運営メンバー一人ひとりが、生活者としての自分が肌で感じていることを言葉にし、持ち寄って、メディアの輪郭を描いていきました。戦略の言葉ではなく、自分の生活から出てきた言葉で、読者の姿と、メディアのありたい姿が定義されていきます。

大事なのは、この言葉を飾りで終わらせないことです。定義した言葉は、企画の起点をどこに置くか、どんなスタンスで書くか、どんな読後感を残すか、という日々の編集判断の基準へ翻訳していきました。あわせて、コンテンツづくりに向かう姿勢を短い言葉に落とした心構えもまとめています。コンセプトは、実務の判断とつながって、はじめて機能します。

正解の教科書にしない

まとめ方にも、明確な設計思想があります。編集読本は、正解の教科書にしないことです。

ルール集にすれば、チェックリストとしては機能するかもしれません。ただ、過去の資料が次第に使われなくなっていった経緯を踏まえると、ルールだけでは判断の背景が伝わりません。読本は、議論がどう進み、なぜその言葉に決まったのかというストーリーごと読めるかたちにしました。

収録するのは、コンセプトの言葉だけではありません。読本をつくろうと思った動機に始まり、どんな人のための、どんな場所なのか。コンテンツづくりの心構え。企画・内容・表現のチェックポイント。そして、それらの言葉がどんな議論を経て決まったのかという経緯や、制作に関わったメンバーの声まで。一つの流れとして読めるようにしています。

流れがあるから理解しやすく、新しく入った人にも説明しやすい。つくる人が替わっても、メディアブランドとして保ちやすくなる。読み物というフォームを選んだ理由は、ここにあります。かたちは製本した書籍ではなく、社内で配布と更新がしやすいPDFのドキュメントです。

つくった後まで、考える

もうひとつ大切にしたのが、つくった後のことです。読本は、完成した時点ではまだ何も変えていません。読まれ、判断に使われ、その判断が積み重なって、はじめてメディアの「らしさ」になります。

だから、読本を「読むもの」に留めていません。企画を考えるときのフォーマットや、チェックポイントに読本の要素を取り入れ、日々の運営の手順の中で判断基準に立ち返るかたちにしています。判断の背景を伝えるのは読本、日々の判断のなかでそれを呼び出すのがフォーマットやチェックポイント、という役割分担です。

読本が完成してからまだ日が浅く、こうした運用が判断をどこまで揃えていくかは、今後確かめていく段階です。

オウンドメディアの「らしさ」は、担当者の感覚に宿っているうちは、異動とともに失われます。判断の拠りどころを言葉にし、それが読み継がれる状態までを見届ける。そこまでを目指すのが、メディアブランドをつくる仕事だと考えています。

POINT

  1. 時間とともに変わる組織の変化をふまえ、変わらないメディアの「らしさ」を定義
  2. 生活者としての自分に向き合い読者と共有したい動機(コンセプト)を言語化
  3. メディア運営のためのガイドラインとして実際の制作業務につなげる