メディアブランドを起点に、地域の良いものづくりを活かしたうつわを開発。地域資源の拡充を目指して

Partner
丸朝製陶所
企画協力
スタイリスト 菅野有希子さん
2022.7.27

「地域に眠るうつわの魅力を多くの人に届けたい」ーー そんな思いから、IDENTITYはライフスタイルメディア「cocorone」を立ち上げました。本社がある岐阜県・美濃加茂市に隣接する地域は、伝統工芸品「美濃焼」が作られる、うつわの一大産地としても知られています。

しかし、広く認知されているブランドはほんの一握り。大量生産・大量消費の波にもまれ、美濃焼本来の価値が伝わりにくくなっている課題がありました。

そこでIDENTITYは、スタイリストの菅野有希子さん、岐阜県・多治見市で100年以上続く老舗の窯元「丸朝製陶所」さんと共同で、現代の暮らしに寄り添ううつわブランド「きほんのうつわ」を立ち上げ。

「cocorone」ユーザーへのインタビューを起点とした商品企画、クラウドファンディングを用いたテストマーケティングを経て、2021年にECでの販売をスタート。地域の資源をブランドとして事業化することで、本来の価値に見合った収益を生み出し、得られた知見とともに生産者に還元しようと試みています。

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地域の良いものづくりを活かした事業開発で、地域資源の総和を増やす

「地域に眠る良いプロダクトは数多くあるのに、情報が流通していない」

代表の碇が東京から愛知に移住した際に感じた違和感から端を発し、「地域に眠るうつわの魅力を多くの人に届けたい」思いから立ち上がったライフスタイルメディア「cocorone」。2017年のローンチ以来、「うつわで暮らしに彩りを」をコンセプトに、シーンに合わせた食卓を発信してきました。

IDENTITYの本社がある岐阜県・美濃加茂市をはじめ、隣接する可児かに土岐とき多治見たじみ瑞浪みずなみの地域でつくられる陶磁器は「美濃焼」とよばれ、うつわの国内市場の6割以上を占めている一大産地です。ところが、広く認知されているブランドはほんの一握りしかありません。

100円ショップからホテルの洋食器までーー大量消費・大量生産の波に乗り、今や、美濃焼は幅広く使用されるようになりました。うつわの流通量が増え、手頃な価格で取り扱われるようになった一方、手間ひまかけた高品質なものの価値が伝わりにくくなっている課題があります。

中量生産・中量消費で、美濃焼の真価を伝えられるプロダクトを増やしていきたい。そして、社会変化の波に飲まれた地域の良いものづくりや精神を見直し、より生産者にスポットが当たるように。地域の魅力が高まれば、地域に集まる人やモノ、お金など「地域資源」の総和も増えていくはず。

「cocorone」から始まった「きほんのうつわ」は、そんな願いから始まりました。

自社メディアを活用し、ユーザーの声を反映したものづくりを実現

地域の優れた産品やサービスの販路を開拓し、商品の価値に見合った収益を引き出す。そこで得られた知見や収益を生産者に還元する“地域商社事業”として走りだした「きほんのうつわ」。

商品企画では、「cocorone」のユーザーに協力を仰ぎ、インタビューを実施。うつわに関する質問を深堀りながら、得られた意見やニーズをもとに開発を進めていきました。

デザイン案を決める過程では、「cocorone」の公式SNSにてアンケートを取ったり、商品のサンプルが届くのに合わせてファンミーティングを開催することも。どんな形や大きさが求められているのか? ユーザーの声をもとに試作を繰り返し、スタイリストの菅野有希子さん、岐阜県・多治見市の老舗窯元「丸朝製陶所」さん協力のもと、理想とするうつわを作り上げていきました。

2回のクラウドファンディングを経て、本事業化のためにECを立ち上げ

その後、2回のクラウドファンディングを通じてテストマーケティングを実施。「商品の購入=応援」の意味合いも持つクラウドファンディングは、立ち上げ人の親戚や友人など、個人的なつながりから商品が売れることも少なくありません。商品そのものに魅力を感じて購入してくださった人の数があいまいだと、商品に事業化可能なポテンシャルがあるのかを見極めるのは困難です。

そこで、1回目と2回目であえて別のプラットフォームを利用。商品自体の魅力に惹かれて支援してくれた人(新規ファン)がどれほどいるのかを検証しました。結果、2回の開催ともに新規層も多く、各回で購入者の被りも少なかったことから、本事業化を決意。ECの立ち上げに踏み切りました。

オープンを記念し、LINE公式のお友だち限定で限定色の販売を開始。クラウドファンディングで特に好評だった小皿から、限定色の「薄茶」を販売したところ、予定よりも前倒しで完売するほどの反響をいただきました。

地域の良いものづくりを最大限に活かし、伝えていくために

ものづくりの現場に足を運び、地域の人との“対話”と“信頼”を積み重ね、地域の人と一緒にうつわを作りあげる。地域の良いものづくりを活かした商品を開発するため、「きほんのうつわ」はそんな姿勢を大切にしています。

2022年6月に数量限定で先行予約を開始した「こなれ小鉢 焼き締め」は、窯元の「丸朝製陶所」を何度も訪れ、代表・松原さんとの対話から着想を得て企画した商品。土の質感をそのままに、食洗機や電子レンジ、オーブンにも対応可能な使い勝手も両立したうつわです。

商品の開発だけでなく、漆や金粉を使って継ぎ目を修復・装飾する金継ぎサービスを始めたのも、ものづくりに真摯に向き合う現場の方の葛藤を知ったからこそ。陶磁器は、廃棄されると土に還ることはなく埋めるしかありません。大量廃棄による環境への負荷が問題視されるなか、地域に眠るうつわの魅力を絶やさぬよう、また「きほんのうつわ」の商品を長く愛用してもらえるよう、自分たちにできる工夫を考え続けています。

実際に見て、聞いて、触れて。わたしたちが現地を訪ねて美濃焼の良さを体感したように、ユーザーにも「きほんのうつわ」の良さを生で確かめてもらいたい。その思いから、リアルな場の展開にも積極的に取り組んでいます。

2021年9月には、大人のためのルームウェアブランド「e/rm(イーアールエム)」(株式会社アダストリア)のニュウマン横浜のポップアップにて、きほんのうつわを取り扱っていただけることに。2022年6月には、レストラン付きのまちの秘密基地「Sta.」にて「こなれ小鉢 焼き締め」の展示会を行いました。

そして、2022年8月をもって「cocorone」のメディアは閉鎖。今後は、地域に眠るうつわの魅力をより多くの方に伝えるため、「きほんのうつわ」の活動をメインに、美濃地方を始めとするさまざまな地域のうつわの魅力をお届けしていきます。

POINT

  1. 地域の良いものづくりを活かした事業開発
  2. メディアを通じたユーザーインタビューを起点とした商品企画、プロトタイピング
  3. クラウドファンディング等を用いたテストマーケティング
  4. 検証結果を元にEC立ち上げ、本事業化