プロスポーツクラブにおけるUXリサーチ、デジタル改革の推進で、ファンの本音を探求する
名古屋ダイヤモンドドルフィンズは、B1リーグに所属するプロバスケットボールクラブです。2016年のBリーグ開幕以降、ファンのニーズが定かではなく、仮説の発見やファンが求める体験の提供ができず、集客に課題を持っていました。
IDENTITYは、2018年よりドルフィンズのマーケティング戦略に伴走。UXリサーチによる観客のインサイト分析や、独自のデータベース構築支援によるLTVや属性の把握、Web広告やSNSの運用など、全体戦略の設計から実施までを担当しています。
“感覚”に頼ったマーケティング、ファンへの理解不足を痛感
1950年に三菱電機名古屋製作所で創部したドルフィンズは、実業団時代を経て、2016年にBリーグへ参戦。初シーズンから2年間は、無料招待やメルマガなどでファンの認知や輪を広げていましたが、何もかもが手探り状態でした。
根拠がないまま、感覚的にターゲットを選定したり、戦略を考えたりする日々。確かな効果も感じられず、その針路に自信を持てずにいました。
また、無料招待で来場した観客がファンクラブに加入したかは把握できても、それ以降の来場有無や頻度は把握できず。「集客を増やし、より多くのファンに観戦を楽しんでもらうためにも、まずはファンのことを深く知る必要がある」という課題を抱えていました。
UXリサーチでファンの潜在的なニーズを分析、仮説の発見へ
ファンの解像度を上げ、ニーズに基づいた仮説を発見するため、IDENTITYはUXリサーチを提案。「1シーズンに4回以上来場してくださった方はコアファン」と仮定した上で、コアファンの属性や、4回来場するまでの経緯や感情を尋ねるアンケートを行いました。
そこで得られた定量的な意見を深堀りするため、回答者の中から数組に対面でのインタビューを実施。一定期間、複数のファンと観戦体験を共にすることで、ファン自身も“言語化できない”、潜在的なニーズや課題の発見を促しました。
結果、小学生以下の子どもを持つファミリー層が、より試合を楽しみ、ファンになってくださる傾向が強いと判明。ファンクラブ加入後は積極的に来場してくださる方が多いことも分かりました。また、来場後のファンの動向を時間軸で分析し、満足度や熱量の動きをグラフ化し、ファンクラブ勧誘のタイミングも検討。完成したグラフからは、ファンの感情が最も高まる試合の後半から会場の外に出るまでが勝負だと分かりました。

UXリサーチをもとに作成した、カスタマージャーニーマップ
これをもとにファミリー層をターゲットに、会場内でのファンクラブ勧誘に注力した結果、会員数は約2,000人から約5,000人に、ファンクラブ会員1人あたりにおける1シーズンの来場数は、平均5回から7回に増えました。
CRMの活用、ファンの感情に基づき会場演出の再設計も
あらゆる数字が順調に伸びるなか、平均来場者数だけは2,680人から2,710人の微増にとどまり、B1リーグの18クラブ中13位の結果に。「新規のお客様に対するアプローチ不足」が、新たな課題として浮き彫りになり、4シーズン目からは新規のお客様を含め、ライト層の来場促進に注力し始めました。
IDENTITYは、CRM(顧客関係管理)システムを活用し、観客に関する独自のデータベースの構築を支援。これまでの調査から、再来場のハードルは「きっかけがない」ことだと分かっていたため、無料招待で初来場した観客に対し、CRMを活用したアプローチを展開し始めます。
具体的には、初来場からしばらく期間が空いてる方たちに対して、メルマガで無料招待や割引のオファー送り、ドルフィンズを思い出してもらうきっかけを提供。CRM経由で1,266名の観客が再来訪しました。
また、これまでのリサーチから、ライト層がコアファンになる体験のステップを導き出し、再来訪した観客の満足度を上げるために会場演出の改善を提案。NPS調査を実施し、観客の満足度を測りながら施策のチューニングを行いました。
結果、チケットやグッズ、フードの購買データを計測し、個々のLTV(顧客生涯価値)を算出したところ、無料招待で来場した方の多くが、2回目以降の観戦チケットを定価で購入していると判明。割引や無料招待でかけたコストに対して黒字の結果になりました。
新型コロナウイルスの影響でシーズンは打ち切りになったものの、平均来場者数は2,711人から3,351人と昨年対比で24%増加。2019-20シーズンにおいて、Bリーグトップ3に入る集客の伸び率を記録しました。
公式のInstagramやLINEアカウント、ブログの運用までサポート
IDENTITYでは、新規顧客の獲得や、ファンのロイヤリティ醸成を目的に、コミュニケーション周りのプランニングと実行も担当しています。
具体的には、ドルフィンズ公式Instagram、公式LINEアカウント、公式ブログ「DDマガジン」の戦略立案からキャンペーンの企画、運用まで、Web広告の配信のサポートも行っています。

公式ブログ「DDマガジン」にて選手の取材記事を制作
安定的な運用体制の確立により、SNSのフォロワーを着実に伸ばし、ファンのエンゲージメントを向上。クラブへの求心力を高めています。
POINT
- UXリサーチによる、ファンの潜在的なニーズの発掘
- ニーズに基づくマーケティング戦略の立案
- 観客に関する独自データベースの構築支援
- 定量、定性データに基づいた対1でのCRM施策の実行
- SNS運用、Web広告配信により、新規顧客の獲得とファンのロイヤリティを醸成